看護職員の労働実態調査結果報告について
日本医療労働組合連合会は、看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)の労働と健康実態を明らかにするため、昨年5月~7月に全国で以下の大規模な調査を行いました。
今回は、2017年看護職員の労働実態調査報告についてご紹介します。
調査内容
- 人手不足による過重労働について
- 常態化する時間外労働について
- 賃金不払い労働
- 年次有給休暇
- 休日の過ごし方
- 休憩時間
- 医療・看護事故
- メンタル不調
- ハラスメント
この調査のなかで浮き彫りになったのが、
看護職員の深刻な人手不足、過酷な夜勤・交替制勤務です。
1.人手不足による過重労働について
1年前に比べた仕事量は、「増えた」が58.0%と半数以上を占めています。
- 経験豊富なベテラン層に重い負担がかかっている。
- 夜勤帯の仕事量が増えている。
- 看護体制で配置人数が低いところは、仕事量がより増加している。
ことが表からわかります。
2.常態化する時間外労働について
「日勤」の時間外労働について、始業時間「前」、終業時間「後」ともに「30分以上」が半数以上を占めています。
時間外「60分以上」は、20〜24歳、25〜29歳の若年層が最も多く割合を占めており、次いで30歳代、40歳代、50歳代、60歳代となっています。若年層に負担が生じていることがうかがえます。
長時間労働の「2交替夜勤」については、始業時間「前」の約60分以上の時間外労働が突出しています。
1ヶ月の時間外労働については、「過労死ライン」の長時間労働を0.8%である254人が行っています。全国の看護職員が約142万人であるため、この内の0.8%であると考えると、約11,360人となります。
夜勤交代制の有害性
夜勤交代制は体に有害であるとされ、睡眠障害や循環器疾患、長期的には発がん性も指摘されています。「過労死ライン」を超えた働き方は、心身ともに非常に危険な状態です。
月60時間を過労死ラインとする理由
「月60時間」を過労死ラインとする理由は、2001年当時、国立系の病院で働いていた25歳という若さで亡くなった女性看護師の公務災害が挙げられます。女性看護師が、倒れる前の時間外労働は月50~60時間前後でした。裁判では、1日の勤務を終えて次の勤務が始まるまでの間隔が5時間程度しかない日が月平均5回もあった事情なども考慮され、不規則な夜間交代制勤務など「質的な重要性」も併せて過労死と認められました。
日本医療労働組合連合会は、「月60時間」が過労死ラインと主張する談話を公表しました。
看護職員が過労死によって亡くならないためにも、管理者は、看護職員の勤務実態を把握し、長時間労働である場合は職場環境の改善を行っていく必要がありますね。
過重労働は、働く者の命だけでなく、患者さんの安全にも係る重要な問題です。
3.賃金不払い労働
約7割がサービス残業であり、「記録」、「情報収集」、「患者対応」が主な業務となっています。
これらは、2017年1月厚生労働省『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』において、労働時間とされています。
労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令の下に置かれている時間」のことを言います。
①着替え
使用者が、制服を着て職務を行うことを労働者に義務付けているのであれば、自宅から制服を着てくることを認めている場合は別として、更衣室で着替えを必要とする時点で使用者の支配が及んでいると考えられ、着替える時間は労働時間になります。
②更衣室と部署間の移動時間
制服への着替え、安全保護具等の装着と担当部署までの移動時間は労働時間になります。
③業務の準備〔情報収集等〕
業務の準備(情報収集等)に必要な時間が所定労働時間内に確保されていない、始業前に出勤する必要がある、上司の黙認がある場合などは、労働時間になります。
4.年次有給休暇
年次有給休暇の取得は、平均8.9日です。取得率は低いといえます。
年次有給休暇の前年度取得状況「ゼロ日」は20〜24歳の若年層が多く占めています。
有給休暇を取得することは、労働基準法で定められた労働者に与えられた権利です。有給休暇は、正社員だけのものでなく、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても有給休暇を取得する権利を持っています。
一人一人の職員が「有給休暇を取得できて当たり前。」という意識を持っていくことが大切です。
5.休日の過ごし方
休日の過ごし方は、「家事」が6割、「睡眠」が5割が多い結果となっています。
看護師は、バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)しやすい職種であるとされています。
バーンアウト症候群とは極度の緊張とストレスに過労が加わると起こる心の病であり、情緒的消耗、脱人格化、個人的達成感の減退を生じます。これらは、うつ病に通じる症状です。
看護師は常に緊張にさらされると共に、仕事や職場環境から強いストレスを感じやすい職種です。疲労が蓄積され慢性疲労となることで、休日になっても回復せず、睡眠をとっている可能性が考えられます。
6.とれない休憩時間
休憩時間がきちんととれていないことは、看護職だけでなく、患者の安全に係る重大な問題であると考えています。
労働基準法34条
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
- 6時間を超えて働くときは、途中に45分の休憩が必要です。
- 8時間を超えるようなら、途中に1時間の休憩が必要です。
- 休憩は、労働から解放されて自由になれる時間でなくてはなりません。
たとえば、労働時間がピッタリ8時間の場合は、途中に45分の休憩を挟まなければならないし、8時間を超えて残業があるというようなケースなら、途中に1時間の休憩を挟む必要があるということです。
休憩時間をきちんととれない職員がいる場合、管理者は、部署内の業務量と人員配置を見直す必要があります。
7.医療・看護事故
慢性的な人手不足による医療現場の忙しさが、医療・看護事故が続く大きな要因となっています。
医療・看護事故の要因分析や対策を深めるためのものとして、インシデント報告制度があります。
インシデント報告は、個人に対する責任を追及したり、当事者などの処罰のために用いられるものではないため、誰が何をしたに終始する報告は、インシデント報告とは言えません。何度も同じインシデント案件が発生する場合は、要因分析が十分ではなく、有効な対策を講じることができていないといえます。
誰が何をしたかよりも、インシデント要因を詳細に分析して、同じインシデントが発生しないことに重きを置いて対策を講じることができる職場を目指したいですね。
8.メンタル不調
メンタルヘルスについて、看護職はハイリスクグループといわれています。しかしながら、現場ではまだまだ十分なケアができていないと考えています。
看護師は他の職種に比べ、仕事量や仕事量の変動が大きいことにより、ストレスが高まり疾患発生の危険性が高くなるとされています。
厚生労働省が発表している「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況 (平成26年度結果)」によると、
看護職を含む医療・福祉(医療業)は、精神障害の労災請求件数の多い職種(大分類)の第2位を占めています(1位:社会福祉・介護事業)。さらに、請求件数の多い職種(中分類)では、看護職は過去5年間を通じてワースト10に入っている現状があります。
管理者は、看護職員がメンタル不調にならないような労働条件・労働環境を整えていく必要があると考えています。
9.ハラスメント
ハラスメントとは、様々な場面での『嫌がらせ、いじめ』を言います。
セクシュアル・ハラスメントとは、本人が意図する、しないにかかわらず、相手が不快に思い、相手が自身の尊厳を傷つけられたと感じるような性的発言・行動を指します。
パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。
以下は典型例であり、パワーハラスメントに当たりうる行為についてを網羅するものではないことに留意する必要があります。
1)身体的な攻撃
暴行・傷害
2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
都道府県労働局などに設置されている相談コーナーに寄せられる相談の中でも、パワハラに関する相談件数は年々増加傾向にあるとされています。
また、パワハラの相談件数の増加とあわせ、職場のいじめや暴力などが原因で、うつ病などの精神障害を発症し、労災補償されたケースも増加しています。
マタニティーハラスメントとは、妊娠、出産、子育てなどをきっかけとして嫌がらせや不利益な扱いを受けることです。マタハラは法律で禁止されており、使用者に防止措置が義務付けられています。
職場環境配慮義務とは
使用者は、職員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務=職場環境配慮義務を負います。
職員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、使用者はその損害を賠償しなければいけません。
使用者責任とは
ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があります(民法第715条)。
ハラスメントを行った職員はもちろん、行為が組織的に行われていた場合や、社内の問題を放置していたなどの場合には、使用者は、職場環境配慮業務等の法的責任を問われることがあります。
ハラスメントに該当する裁判例では、民法に基づく民事上の責任が問われており、加害者や適切な対応をしなかった管理監督者とあわせて、使用者責任を問うものが多くなっています。また、加害者については刑法に基づく刑事上の責任が問われる場合もあります。
以下、日本医療労働組合連合会によるまとめになります。
2025年に向けて、看護職員の人手不足は、更に悪化することが予測されます。人手不足により、辞めずに残って働いている看護師や、現在、辞めたいと思っていない看護師も「辞めたい」という気持ちが波及する可能性があり、人手不足による悪循環に陥ることにより、労働環境・労働条件の更なる悪化が生じる危険性があります。
交代制勤務が身体的疲労に影響しており、月の夜勤時間に制限を設けた「夜勤72時間ルール」を決めるなど対策に乗り出してはいますが、看護師の負担軽減には繋がっていないと考えられます。
※夜勤「72時間ルール」とは
「夜勤をする全看護師の夜勤時間の合計」から「夜勤をする全看護師の人数」を割った数字が72時間以内にならなければいけない看護師の夜勤負担軽減を目的としたルールのことです。
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