働き方改革と医師の応召義務等について

職員の皆さん、お疲れ様です。

北里大学病院 労働組合準備会です!


今回は、働き方改革と医師の応召義務等について書きます。

【働き方改革について】

働き方改革法の施行まで半年余りとなりました。

働き方改革法の正式名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案または「働き方改革」一括法案です。
働き方改革法は、8本の労働法の改正を行うための法律案をまとめた名称です。
8本の労働法とは
  • 雇用対策法
  • 労働基準法
  • 労働時間等設定改善法
  • 労働安全衛生法
  • じん肺法
  • パートタイム労働法(パート法)
  • 労働契約法
  • 労働者派遣法  です。 
1.働き方改革の総合的かつ継続的な推進
2.長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等
3.雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保の3つを柱としています。

以下、働き方改革について、おさらいします。

ワーク・ライフ・バランスは、生活と仕事を調和させることで得られる相乗効果・好循環のことです。

ワーク・ライフ・バランスの重要な要素として、働きながら育児・介護をするための制度・環境を整える「ファミリーフレンドリー」と性別を理由としたあらゆる差別を禁止する「男女均等推進度」が挙げられます。働きやすい環境を整備することにより、労働力の担い手を増やし生産性向上を実現させることを目的としています。


2016年9月より働き方改革実現会議が開かれました。働き方改革実行計画が決定され、以下の9分野に対して具体的な方針が示されました。

残業時間の上限規制が設けられました。

残業のあるすべての事業所に36協定が必要であり、36協定を締結した場合の通常時の残業は月45時間、年360時間までとされます。
特別条項を設ける場合は、年6回まで月45時間を超える臨時的残業が許容されます。また、特別条項があっても、残業はトータルで単月100時間未満、年720時間までとなります。

上限を超えた場合は、罰則として、事業主に半年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

医師については特例が設けられており、残業時間の上限規制は5年間猶予されます。2年後をめどに、医師の残業時間の上限規制について規制の在り方を検討するとしています。

他働き方改革関連法主な施策

【2019年4月〜】

  • 有給休暇取得の義務化
年間10日以上の有給休暇がある労働者が5日以上の有給休暇を取得することが、事業主に対して義務づけられます。〔年次有給休暇記事参照〕
  • 勤務間インターバル制度
勤務の終業時間と始業時間の間に一定時間インターバルを置くことを定める勤務間インターバル制度の普及、促進に努めなくてはいけません。 
  • 産業医の機能強化
事業者が衛生委員会・産業医に対して健康管理に必要な情報を提供することが義務づけられました。
  • 高度プロフェッショナル制度の創設
高度に専門的な職務に就き、一定の年収を有する労働者について、本人の同意等があれば労働時間等の規制の対象外とすることができます。  



【医師の働き方について】

皆さん、医師は労働者であると考えますか。

医師は、労働者であるということに違和感があるという方もいらっしゃると思いますが、医師も、労働者です。

厚生労働省の医師の働き方改革に関する検討会において、勤務医と病院が時間外手当の支払などを争う裁判を例に挙げて、「労基法上の労働者であることは争う余地がない。『患者のため』という意識は問題にならない」としています。

かつての日本では、人命を救助のもと、医師の長時間労働が問題視されることはありませんでした。しかし、近年、労働基準監督署による病院への立ち入り調査が実施され、医療業界において長時間労働を是正する動きが活発化しています。

医師の業務は多岐に渡ります。外来、検査、手術、病棟等での業務があり、すでに受け持っている患者さんへの対応をしつつ、新規患者さんの対応も行っています。

1日の中で午前中は外来患者さんの対応を行い、午後からは、担当する患者さんの治療や手術を行うこともあります。多忙な病棟であったり、10時間を超える手術などが入った場合、必然的に仕事は不規則になります。長時間労働になるのは避けられません。


厚生労働省の医師の働き方改革に関する検討会によると、週あたりの勤務時間が60時間以上の常勤医師は全体の39パーセントにも及びます。約4割の医師が長時間労働を行っている現状があります。そのほとんどは、病院の勤務医です。


【医師の長時間労働と過労死認定、病院の安全配慮義務違反】

医師の過労死や長時間労働は、社会問題となっています。医師が不足する病院の勤務医や研修医は、過酷な労働を強いられている現状があります。過度な労働負担が誘因となり、くも膜下出血や脳梗塞、心筋梗塞、急性心不全等を発症し、死に至る場合があります。
発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労した場合には、過労死の労災認定がされます。
発症前の約6ヶ月間で判断されます。例えば、発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働がある場合や、発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働がある場合は、業務と発症との関連性は強いと判断されています。
関西医大事件(大阪高裁平成16年7月15日判決)や麻酔科医事件(大阪高裁平成20年3月27日判決)等の裁判により、使用者である病院の医師に対する安全配慮義務違反による損害賠償請求が認められました。

厚生労働省による「2017年医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によると、日本の勤務医の1週間の平均労働時間は、当直、オンコールの待機時間を含め、約70時間です。
アメリカの平均約51時間、フランスやドイツの平均約45時間と比較すると、日本の医師は長時間労働であるといえます。

日本の医師には、医師法第19条第1号に基づく応召義務があります。

応召義務は倫理規定ではあるものの、人命に係る問題であり、高い倫理観のもと、職務を遂行する必要があります。

応召義務を守ると、時間外労働規制に抵触することになります。そのため、時間外労働上限の超過が、応召義務を免除する正当事由に該当するのか、『正当事由』の範囲の解釈が重要となります。

応招義務の正当事由については、範囲が不明確であるため、今後、医師の働き方改革に関する検討会において、応招義務の解釈について整理していくそうです。

殆どの医師は、勤務時間外も学会発表に向けて論文を書くなど研究に携わっています。この時間について、労働時間に含めるかについても議論していくとのことです。

今後、医師の業務に多大な影響を及ぼすと考えられる2025年問題が控えています。超超高齢社会への準備を着実に進めていくことが、病院に求められています。


※2025年問題とは
「団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になる」時代が到来することにより、介護・医療費などの社会保障費の急増が懸念される問題のことです。

現在の医師の働き方が改革されないと、法令を遵守しながら高いパフォーマンスを発揮していくことは難しいと考えられます。

現在、医師の長時間労働を改善するための様々な解決策等議論が紛糾しています。

  • 夜間診療の取りやめ、救急患者さんの受け入れ制限、土曜外来の大幅縮小により医師の拘束時間を減少させる。
  • 研修時間の短縮を行う。
  • 様々な医師業務について看護師へタスク・シフティングを行う。
  • 医師の指示のもと、医師事務作業補助者(メディカル・セクレタリー)が医療文書作成代行等の事務作業を行う。
  • 業務移管により、看護師が負担にならないよう看護師と看護補佐の間で業務の分業化を行う。
  • 更なるチーム医療を推進するために、コミュニケーション方法について工夫を行う。
  • 最新医療機器の活用、AIなどのロボットのテクノロジーを活用する等

医師の自己犠牲なく、適正な時間で患者さんに安全、最適な医療を提供できることが大切であると考えます。


そのためには、私たち労働者1人ひとりが、労働条件や労働環境の問題点や改善点について積極的に意見を行っていくことが重要です。


病院当局は、まず、勤務医1人ひとりに対して以下の労務管理チェックを行うべきであると考えます。

  • 労働時間管理に関する周知〔就業規則、労働条件、労働条件通知書交付、36協定、勤務表等〕
  • 1人ひとりの医師の労働時間の適正把握
  • 労働時間、休日休憩の取り扱い
  • 36協定の締結と運用
  • 割増賃金の取り扱い
  • 勤務医の安全と健康の確保
  • 女性勤務医の就労支援
日本医師会による医師の健康支援を目指して『勤務医の労務管理に関する分析・改善ツール』は労務管理改善の一助になると考えています。
労働時間の適正な把握がされると、病院当局は残業時間に対しては残業代を支払わなければなりません。

現在、残業代請求権の時効期間は、2年です。

〔労働基準法115条において、賃金請求権の消滅時効時間を2年間としています。〕

2017年5月26日に民法改正の法律法が承認され、成立しました。2020年4月1日に施行される予定です。

改正民法では、現行民法の174条の短期消滅時効は廃止されることになりました。

債権の消滅時効期間については、原則として5年となっています。


「特別法は一般法に優先する」との法律の原則からすれば、労働基準法(特別法)は、民法(一般法)に優先されるので、残業代請求権の消滅時効期間は、改正民法施行後も2年となると考えます。

一方で、改正民法が優先され、残業代請求権の消滅時効期間が5年となる考えもあります。

病院当局は、未払残業代の清算と、今後の勤怠管理について検討する必要がありますね。


議論の動向については、以下の厚生労働省のホームページからチェックすることができます。

労働条件・労働問題についての

ご意見、ご相談等は

北里大学病院労働組合準備会

または

上部団体である

神奈川県医療労働組合連合会

まで、ご連絡ください。

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