労災保険法について①(労災保険法・労働安全衛生法)

職員の皆さん、お疲れ様です。

北里大学病院労働組合準備会です。

日毎に寒さが加わり、鮮やかな紅葉の季節となりましたね。


今回は、「労災保険について①(労働安全衛生法と労災保険法)」です。

【長編です。】

  • 勤務により、針刺し事故等のケガをしたり、感染症や心身の病気に罹患した場合、労災に該当する基本的な考え方
  • 労災が起こる環境に対して、私たち労働者は、勤務先に何を主張することができるのか。

などについて考えていきたいと思います。

自分や家族、周囲の人々の身を守るための知識の再確認にもなると考えています。


労災について、重要となる法律は、

『労働安全衛生法』と『労災保険法』

です。

労災保険は、すべての労働者が対象です。

労災保険での労働者とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労働基準法第9条)をいいます。

窓口は、労働基準監督署になります。

保険料について、労働者負担はありません。

労災は、健康保険で受診するものではなく、治療費の労働者負担はありません。原則として『労災保険指定医療機関』で無償で治療を受けることができます。

労災の療養中の解雇は禁じられています。(労働基準法第19条)

労災には、

「業務災害」と「通勤災害」があります。

業務災害は、仕事を原因とするケガや病気(死傷病)のことであり、治療費などは勤務先に負担義務があります。(労働基準法第75条)
被災により休業したり、被災者の体に障害が残ったり、死亡した場合も勤務先が補償しなければなりません。

通勤災害の「通勤」とは、「①就業に関し、②住居と就業の場所との間を、③合理的な経路および方法により往復すること」とされています。
日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由を行うための最小限度であるもの以外である「逸脱(通常の通勤経路からそれること)」、「中断(通勤とは無関係な行為をすること)」は通勤に含まれません。

労働災害の認定要件は、

「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素を満たすかどうかになります。


● 業務遂行性とは、業務災害に該当するか否かを判断するための基準の一つで「怪我をしたときに仕事をしている状態だったかどうか」です。

業務遂行性は大きく3つに分けられます。
1.事業主の支配・管理下にあり、かつ、業務に従事している。
2.事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない(例えば「休憩時間」) 
3.事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している(例えば「出張」)

● 業務起因性とは、業務災害に該当するか否かを判断するための基準の一つで「その怪我が、仕事をしていたことが原因で生じたと言えるかどうか」です。

業務起因性は大きく2つに分けられます。

1.業務としての行為 
2.事業場の施設・設備の管理状況

 勤務先が、「これは労災ではありません。」と判断しても、労働者自身が「いえいえ、これは労災です。」と判断すれば、勤務先の証明なしに、労働基準監督署にて必要な手続きを行うことができます。


労災保険では、事故をわざと起こしたというような事情が無い限り、本人に多少の落ち度があったとしても、労災であると認定され、保険給付が行われています。

例えば、勤務先でよそ見をしていたり、機械の操作手順を間違えてしまったりするなど、不注意が原因でケガをした場合であっても、労災であると認定されています。
診療業務中に生じた針刺しなどによる刺傷、血液体液曝露後に発症した肝炎、業務上の事由で感染した結核や麻疹などは、基本的に補償の対象となるとされています。

一定の疾患には仕事との因果関係が証明されています。

仕事との因果関係が明らかな病気を労災保険では、「業務上の疾病」と呼びます。

その具体的範囲については、労働基準法施行規則別表第1の2に列挙されています。

第1号から第11号まであります。

第6号『細菌・ウィルス等の病原体による疾病』は、
1.患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患
(「介護の業務」は、『疥癬等の伝染性疾患の認定状況』を踏まえ、平成 22 年 5 月 7 日の労働基準法施行規則の改正により、 新たに明示されました。)
2.動物若しくはその死体、獣毛、革その他動物性の物又はぼろ等の古物を取り扱う業務によるブルセラ症、炭疽病等の伝染性疾患
3.湿潤地における業務によるワイル病等のレプトスピラ症
4.屋外における業務による恙虫病
5.1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病です。

業務上の疾病が、労災に該当するかどうかは、労働基準監督署長が判断します。

業務上の疾病に該当するかどうかは、「認定基準」により判断されます。

 (認定基準とは、一定の病気に関する最新の医学的知見を集約し、どのような条件が重なれば発症に至るかを定型化したもの)
例)
脳・心臓疾患:「脳血管疾患及び虚血性疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」
精神疾患:「心理的負荷による精神障害の認定基準」

被災者は、労災請求を行う際に、労働基準監督署にて被災状況が基準に達していることを示せばよいとされています。


【針刺し・血液汚染等の事故について】

①「業務上の負傷」

②「業務上疾病」

に分けて考えます。

例)医療従事者が採血後、使用済みの注射針により、手の指を刺してしまいました。消毒を行った後、同時に、B型肝炎の予防薬である免疫グロブリンとHBワクチンを投与しました。しかしながら、検査結果は 6 か月経過後でないとわかりません。

万が一、B 型肝炎を発症した場合、労災の適用になるのでしょうか。

 針刺しの段階では、「業務上の負傷」であり、その後にB型肝炎を発症した場合に「業務上の疾病」となるため、両者は、別々に取り扱われることとなります。  
 
医療従事者は、HBVの保有者と接する機会が多く、さらに主な感染源である血液を直接取り扱うこともあるため、感染のハイリスクグループと位置づけられています。
 針刺し事故後、約45日から180日までとされる潜伏期間内に、B 型肝炎ウイルスに感染し、その後B 型肝炎を発症し加療を要したときは、業務中の当該行為が発症の要因であるとの蓋然性が高く、業務起因性が認められると考えられます。
 したがって、万が一B型肝炎を発症した場合、別表第 6 号 5の「1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」に該当すると考えられます。
労災認定されるかどうかについては、労働基準監督署長の判断となります。

医療従事者の感染は注射針の刺傷によるものが最も多く、次いで吐血、喀血等による血液の付着によるものが多いとされています。


【過重労働による健康障害について】

医師、看護師をはじめとした医療従事者の長時間労働が社会問題となっています。
以下、厚生労働省のパンフレットをもとに長時間労働による健康障害について考えていきます。 

1.脳・心臓疾患の労災認定

脳・心臓疾患は自然経過をたどり発症に至るとされ、必ずしも業務に起因することが明らかであるとはいえません。
しかし、業務による明らかな過重負担が加わることで突然、脳・心臓疾患を発症する場合があります。
業務が過重かどうかは、労働時間や作業環境、精神的緊張の状態を具体的かつ客観的に把握、検討し総合的に判断されます。

脳・心臓疾患の労災認定基準の3つの判断要素は、

①異常な出来事

②短期間の過重業務

③長期間の過重業務

です。

2.精神障害の労災認定

うつ病などの精神障害の発病は、仕事や私生活などの外部からのストレスとこれに対する対応力の強さとの関係によるとされています。

つまり、ストレスが非常に強い場合、個人の対応力がある程度あっても精神障害を発病し、逆に個人の対応力が弱ければストレスが小さくても精神障害が生じると考えられています。
(ストレスー脆弱性理論)

精神障害が労災認定されるのは、発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限られます。

以下、精神障害の労災認定要件となります。

業務により、精神障害を発病した者が自殺を図った場合には、精神障害により正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定され、業務起因性が認められます。


いじめ、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、 発病の6カ月前よりも前にそれが始まり、発病まで継続していた場合には、それらが始まった時点からの心理的負荷を評価します。

使用者は、労働者の生命・身体や健康について十分配慮すべき安全配慮業務を負っています。

(労働契約法第5条)

そのため、「不注意がよくない。」、「弱いのがいけない」、「〇〇なところがよくない。」など労働災害の被災者に労災の責任転嫁をするような言動は、安全配慮業務に沿っていない対応であるといえます。
こんな対応されたら、いたたまれなくなります・・・。


労災に被災した際、労働者が、勤務先に主張できることは、民事上の損害賠償請求です。
勤務先の故意・過失による不法行為責任を問うものと、勤務先の安全配慮義務違反(債務不履行)を問うものがあります。
【近年は後者中心】


裁判が行われること自体、使用者の社会的イメージや信頼の失墜に繋がります。

裁判という大きな話になる前に、使用者は安全配慮業務に従って、労働者が働きやすい環境を整えていく必要があります。

被災者のサポートだけではなく、そもそもなぜ被災に至ったのか等労働環境について考えていくことが大切です。

使用者のリスク管理にも繋がると考えています。


我慢して働き続けるのは労働者の心身にとってよくありません。

労働者一人ひとりが働きやすい環境について考え、話し合い、改善を要求していくことで働きやすい職場環境へと変化していくと考えています。


北里大学労働組合準備会は、

病院当局が安全配慮業務に従い労働者の労働環境を整えているかを注視していきます。

また、労働環境の改善要求の必要性が生じた場合は、法人・病院当局に要請書を提出し、改善要請や団体交渉を求めていきます。

 


労災など労働問題についてご相談・ご感想や、労働組合への加入希望などは、

北里大学病院労働組合準備会

【kitasato_kumiai@yahoo.co.jp】



または

上部団体である

神奈川県医療労働組合連合会

までご連絡ください。

医師、歯科医、研修医、看護師、看護補佐、臨床検査技師、薬剤師、医療事務、理学療法士、作業療法士、臨床工学技士、歯科衛生士、管理栄養士、栄養士、調理師、MEなど職種に関わらず、受け付けています。


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